「思い起こせば、負け続けたからこそ今の自分がある」
「ボディビルの神様が見てくれたんだと思いますーー」
少し照れながら、それでも半生を噛み締めるようにして木澤大祐は呟いた。
競技人生の集大成と謳って挑んだ2024年の日本選手権。多くの読者にとってまだ記憶に新しいだろう。ステージの中心には49歳にして主役となった男の最後の勇姿があった。込み上げる涙を鍛え上げられた逞しい腕で拭うその姿は、競技人生31年に及ぶ男の終着点にして、最高到達地点でもあった。
「思い起こせば、負け続けたからこそ今の自分がある」
優勝を決めた直後。煌々と灯るライトを浴びながら男は力強く言い放った。その言葉には勝者にして敗者の精神が窺えた。求めていた結果はずっと出なかった。耐えることのみでようやく辿り着いた日本一の座なのだ。
「ボディビル競技を続けて来れて幸せだった」
大仕事を終えたあとの達成感や安堵感に包まれながら男はそう述懐する。
劇的な初優勝にして有終の美。日本選手権からおよそ1年弱。やがて日本の頂へと続く31年の旅路はすべてのトレーナーにとって道標となるはずだ。